絵と言葉で拓く日本文化研究 ― 絵本・絵巻から広がる研究を学びの現場へ ―
表象文化学部日本語日本文学科|宮腰 直人 教授
表象文化学部日本語日本文学科 4年|詫間 碧 さん
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教授プロフィール

表象文化学部 日本語日本文学科 教授
宮腰 直人 みやこし なおと
埼玉県出身。武蔵大学人文学部日本文化学科卒業、立教大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)。2019年に本学着任。16~18世紀の日本文学・芸能・美術の相互交流を研究。奈良絵本や絵入り版本、古浄瑠璃正本などから絵と言葉、物語が分かちがたく結びつく日本文化の特質を探究。近年は奈良絵本・絵巻と現代の絵本やマンガを架橋する研究にも取り組む。
絵と言葉の物語世界に
惹かれ歩んだ研究の出発点。

私自身の文学の世界への入り口は、子どもの頃に抱いた妖怪や昔話、伝説などの「不思議なもの」への関心でした。その後、民俗学や文化人類学、歴史学へと興味が広がり、大学では日本文化を幅広く学びました。転機となったのが大学時代の恩師との出会いです。説話文学が専門の小峯和明先生からは文学を絵や図像と結びつけて読む視点を学び、美術史研究の大西廣先生の授業では、作品を格付けせず、絵巻や水墨画、浮世絵からマンガ、広告までを同じ「イメージ」として扱うアプローチに衝撃を受けました。

こうした学びの中で出合ったのが、江戸前期の奈良絵本『義経地獄破り』です。地獄を舞台にした大胆な物語構成や入れ子構造、傍観者の視点で展開される語りとともに、絵と言葉が融合した表現の魅力に惹かれました。そして何よりも、絵と言葉が融合したメディアの面白さを実感する決定的な体験となったのです。
当時はデジタルカメラやデータベースの普及が進み、絵画資料へのアクセスが容易になり始めた時期でもありました。こうした環境の変化にも後押しされ、17~18世紀につくられた奈良絵本を中心に、文学・美術史・芸能を横断しながら、絵と言葉で語られる物語世界を研究の軸に据えるようになりました。
世界で受け入れられ、
評価されてきた日本美術。
日本では『義経地獄破り』関連の版本の多くが関東大震災で焼失した歴史があります。私が出合った作品も、アイルランド系アメリカ人実業家、チェスター・ビーティ卿のコレクションの一つでした。意外に思われるかもしれませんが、日本では自然災害が多く、文化財が失われるリスクがあるため、海外で作品が所蔵されることは、保存および世界的な評価につながる点においても意義があると考えています。

居初(いそめ)つなの研究から見える
「小さな芸術」の価値を伝えたい。

近年、注力している研究対象のひとつが、江戸時代の奈良絵本の女性筆者・絵師、居初つなです。現時点では、もっとも古い資料となる1680(延宝8)年につくられた『平家物語』写本を然発見したことが、研究前進の契機となりました。奈良絵本の多くは無署名ですが、居初つなの作品には署名があり、調書と挿絵の双方を手がけていたことが確認できます。これは両者が分業されていたとする見方を一部覆し、奈良絵本制作への女性の関与も示すものです。
また、居初つなは裕福な層の教養として古典籍が求められた時代に、母娘二代で写本制作を担った職人的な存在であると同時に、頬紅をさす可愛らしい人物表現など独自の画風には作家性も感じられます。さらに、居初つなの作品から、当時『伊勢物語』『源氏物語』『徒然草』『鉢かづき』など時代を超えた多様な文学が挿絵とともに親しまれていたことがわかります。主流の芸術だけでなく、こうした日常に根差した「小さな芸術」の価値を現代に伝えていくこともめざしています。

学生自身が解釈の主体となり、
自らの視点で問いを見つけることを重視。

授業やゼミでは、古典を「読む」ハードルを下げ、学生が解釈の主体になることを大切にしています。そのために、2年次の「基礎演習」では、誰もがストーリーを知っている『かぐや姫』を題材に、複数の絵本や『竹取物語絵巻』などを比較します。

現代文・古文、挿絵、構成や場面などアプローチは学生に委ね、古文が苦手でも比較分析する中で解釈の糸口がつかめるよう工夫しています。こうした絵を「見る」だけでなく「読む」経験を重ねる中で、学生の視点の転換が生まれていると感じています。
ゼミでは、絵巻や浮世絵、絵本、マンガなど多様な表現を研究対象とし、学生が自らテーマを設定して卒業論文に取り組みます。鬼や妖怪、幽霊画、動物の擬人化表現、さらには現代マンガの分析などテーマはさまざまですが、重視しているのは結論よりも思考のプロセスです。大学での学びの本質は、単一の正解を求めるのではなく、学生が自ら問いを立て、人や本との出会いを通じて主体的に思考を深める過程にあります。学生たちが比較や観察を通して逡巡する中で、「書くに値する問い」を見つけ、自らの言葉で論じる経験が、研究の楽しさと学びの確かさにつながると考えています。

Side Note
「人や本との出会いを大切にしてほしい」と語る宮腰先生。学内の図書館を積極的に活用して、実際に本を手に取り目にすることで、感じ、考える経験が自らの世界を広げるきっかけになると話されます。ゼミでは隣接する相国寺承天閣美術館の展覧会にも足を運び、学びの場とされています。

ゼミ生プロフィール

表象文化学部 日本語日本文学科 4年
詫間 碧 たくま みどり
自らの視点で、「絵」から物語を読み解く楽しさが広がりました
#わたしの宝物
香川県の実家に帰って家族と話す時間。一人暮らしなのでなおさら大切に感じています。香川県の沙弥島に家族と訪れた際は、美しい瀬戸内海の景色に心が癒やされました。
#ルーティン
授業の空き時間に、学部の友人と好きなアニメの推しキャラについて語り合うこと!
#感謝していること
受験、学生生活、就職活動といつも相談に乗ってくれ、気遣ってくれる家族の存在です。
1年次の授業をきっかけに、
古典への苦手意識が一変。

幼い頃から小説やマンガ、アニメが好きだったことから、なんとなく文学系の学部への進学を考えていましたが、確信が持てずにいました。そんな時に、同志社女子大学の表象文化学部を知り、文学に限らず、絵画やマンガ、アニメーションなど幅広い日本文化を学べる点に魅力を感じ、進学を決めました。
ただ、日本の古典文学には高校時代から文法暗記のイメージが強く、苦手意識がありました。大学入学後も当初は古典関連の科目を積極的に履修するつもりはなかったのですが、1年次に受講した宮腰先生の「日本文化入門」で、その印象が大きく変わりました。説話絵巻の代表作『信貴山縁起』を題材に、学生それぞれが異なる視点で発表を行い、私は登場人物のキャラクター性に注目して解釈しました。同じ作品でも多様な読み方があることを知り、古典作品の面白さに気づくことができました。
自分なりの視点で絵を読み解き、
物語の意味を探る楽しさを実感。

宮腰先生が担当されている2年次の「絵本研究」の授業で、絵を切り口に自分なりの解釈を深める経験が楽しかったことから、宮腰ゼミに所属しました。
以前は「絵巻物=歴史資料」の印象が強かったのですが、今では物語性の魅力や現代のマンガに通じる表現の面白さも感じています。卒業論文では、鼠が人間の姫と結婚する異類婚姻譚の御伽草子『鼠草子』をテーマにしたいと考えています。主人公が鼠の姿のまま描かれる擬人化表現の面白さ、「光源氏にも勝る美男子」と設定されているのに鼠として描かれるギャップの不思議さに注目。また、当時嫁入り本として親しまれた異類婚姻譚が破局で終わる意味など、興味は尽きません。今まさに、こうした表現手法や物語の意味をワクワクしながら読み解いているところです。
多様な解釈が歓迎される雰囲気の中で、
学びの世界が広がっています。

宮腰先生は学生の解釈を尊重し、前例のない意見も後押ししてくださるので、他者と違う考えでも「新しい視点を出せた」と自信が持てるようになりました。
また、『鼠草子』の絵に『源氏物語絵巻』にどこか共通する表現を感じたものの確証が持てずにいた際、ゼミの仲間に相談すると「“垣間見る”表現なら光源氏と若紫との出会いの場面にあるよ」と助言をもらい、「まさにそれだ!」とうれしくなりました。こうした多様な仲間から得る刺激やヒントも、学びを深める大切な原動力になっています。
