心とカラダを満たす“デンシエット”一低カロリーでも満腹度・満足度の高い食事法を構築一
生活科学部食物栄養科学科|奥村 仙示 准教授
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プロフィール

生活科学部 食物栄養科学科 准教授
奥村 仙示 おくむらひさみ
大阪府出身、徳島大学卒業、管理栄養士免許を取得。博士(栄養学)。病院管理栄養士として勤務後、徳島大学大学で臨床栄養研究に従事。カロリー密度に注目し、低カロリーでも満腹になる低カロリー密度のデンシエット(Densiet)弁当を社会実装した。2022年に本学着任。高齢者が少量でも無理なくカロリーを摂取できる高カロリー密度の開発に取り組み、生涯にわたり美味しく食べられる工夫を追究している。
カロリー密度に注目した低カロリー食を、
手軽なお弁当で社会実装。
「必要な栄養素はきちんと摂りながら、しっかり食べても太らない食事があればいいのに」と考えたことはありませんか?食品には、野菜や果物のようにエネルギー(カロリー)密度※1が低いものと、バターやベーコンのようにカロリー密度が高いものがあります。このカロリー密度に着目し、低カロリーでも満腹度や満足度が高い「デンシエット(Densiet)」という食事法を研究・構築しました。
デンシエットとは、「density=カロリー密度」に注目した「diet=食事」という意味の造語です。平均的な成人の適正カロリーは、1食あたり700~900キロカロリーが目安とされています。これを、ご飯150グラムに野菜(芋類を除く、キノコ類、海藻類を含む)200~240グラム、たんぱく質源となる肉や魚の主菜を組み合わせて1食500キロカロリーに抑えることで、無理のない体重管理が期待できます。このようにカロリーを落としながらも、ビタミン・ミネラル・食物繊維などの必要な栄養素はきちんと摂る、満腹感や満足感が得られるといった食事基準を分かりやすく数値化しました。さらに、誰でも手軽に実食できるよう、企業とデンシエットに基づくお弁当の共同研究に取り組み、ライセンス契約による全国販売を実現しました。食材宅配業や大手スーパーなど複数の企業が「デンシエット弁当」を商品化し、累計444万個販売しました※2。
※1 食品1グラムあたりのカロリーのこと。※2 2023年度末時点。
また、デンシエットの普及のために、多様な献立例とレシピをまとめた書籍「デンシエット」「ボリュメトリクス」※3をつくり、ホームページで無料公開しています。こうした研究成果の社会実装が認められ、内閣府「令和4年度女性のチャレンジ賞」をはじめ、さまざまな学術賞を受賞しました。

デンシエットの考え方や食品の選び方、献立例とレシピをまとめた書籍。『デンシエット」「ボリュメトリクス」※はともに非売品で、ホームページから無料でダウンロードできます。
※3 アメリカで考案されたカロリー密度に関する食事法のこと。この書籍では、日本食の献立を取り上げている。
栄養とデータサイエンスの融合により、
高齢者の食事問題にも対応。
私がデンシエットに取り組むようになったのは、糖尿病の発症・進展を防ぐ食品の研究開発を担当したことがきっかけです。最初は、麦や納豆、オクラなどの血糖値上昇の抑制機能について研究していたのですが、1品目の調査に約1年かかるなどの課題がありました。そこで、カロリー密度という概念を新たな切り口に、単一の「食材」に注目した研究だけでなく、さまざまな食材や栄養素を組み合せた「食事」として、肥満や糖尿病の予防効果を検証することで、より実践的な研究成果をめざしました。
2022年4月の本学への着任を機に、新たな展開もスタートしています。これまでは、低カロリーでも満腹・満足」を追求してきましたが、今後は、食が細くなった高齢者のために「少量でも高カロリーの食事」を提案したいと考えています。それが少量でも無理なく栄養が摂れ、かつ良質のたんぱく質などで筋力の衰えを抑えるカロリー密度の高い食事基準「デンシエットplus (仮)」です。食欲がありたくさん食べたい人にはデンシエット、高齢などの要因でたくさん食べられない人には「デンシエットplus(仮)」で、一人ひとりの年齢や“食への気持ち”などの変化にシームレスに対応できます。とりわけ、社会的ニーズがますます高まっている高齢者の食事については、3Dフードプリンターを利用した、噛む力や栄養素など個人に合わせた食事の作成、筋力の維持や抵抗性改善などに効果のあるアミノ酸投与やAIの活用など、栄養とデータサイエンスを融合させ、多角的な視点から課題解決に取り組んでいきます。
つねに相手へのリスペクトを忘れずに。
ゼミでは、学生の得意分野を伸ばす指導を心がけています。具体的な研究テーマとしては、カロリー密度や食品の栄養組成、メタボロミクス、3Dフードプリンターによる食品作成など、私の専門分野の中から、学生それぞれの興味や適性に合った課題に取り組みます。どのテーマにおいても、豊富な実験から得られる大量のデータを解析して新たな知見を導き出す、データサイエンスの考え方やスキルが求められます。ハードな面もありますが、卒業後は管理栄養士の国家資格、プラス“得意分野がある”“データサイエンスに強い”など、強みを持った人材として活躍できるよう経験を積んでいってほしいです。
そしてもうひとつ、学生たちに伝えているのは、相手をリスペクトすることの大切さです。どんな仕事も、自分一人ですべてをこなすことはできません。例えばデンシエットのライセンス化は、産官学連携、事務職員や共同研究している企業の方々の知識をお借りして、ようやく実現できました。目標の達成には、お互いの立場や役割を理解し尊重し合うことが必要です。
どのような道に進んでも、つねに相手への感謝を忘れず、「またあの人と仕事がしたい」と思っていただけるよう、自分を磨いていってほしいと思います。
