2025年、私の生活の軸は大阪・関西万博の会場である夢洲にありました。気がつけば通った回数は30回近く。その始まりは、オープニングイベント「一万人の第九」の合唱への参加でした。娘と共に開幕日の朝6時台から会場入りし、開幕直前の静謐さと開幕の熱気が同居する会場に響いた歓喜の歌は、私にとって半年間の万博という長い旅の「号笛」となりました。
万博会場への道中、常に私を鼓舞してくれたのは大阪メトロ中央線の「音」です。コスモスクエア駅を過ぎ、海底トンネルへと潜り込む瞬間に流れる「次はいよいよ夢洲です。驚きと感動に満ちた夢洲へ、さあ行きましょう!」という車内放送。そして車内に流れるコブクロの『この地球(ほし)の続きを』のメロディ。その音を聴くたび、未知の世界へ足を踏み入れる高揚感で胸がいっぱいになりました。特に会期終盤、車掌さんが口にされた「お帰りの際も、大阪・関西万博最後のパビリオン、大阪メトロ中央線をご利用くださいませ」という粋なアナウンスには、輸送という枠を超えた万博への愛着を感じ、深く心を揺さぶられました。
こうした「車内の音」への愛着は、私のルーツにも深く根ざしています。故郷である兵庫県新温泉町へ帰省する際、特急『スーパーはくと』や『はまかぜ』の車内チャイムが鳴り響くと、それだけで「帰ってきた」という安堵感に包まれます。また、かつて東海道新幹線で流れていた『AMBITIOUS JAPAN!』も、旅の始まりを感じさせる大好きな音色でした。
臨床薬学を専門とし、薬がいかに人に作用し、生活を支えるかを見つめる立場から言えば、こうした音を奏でる楽譜もまた、心に作用する一種の「処方箋」なのかもしれません。特定のメロディが脳内の記憶と結びつき、一瞬にして高揚感をもたらしたり、深い安らぎを与えたりする。車内チャイムやアナウンスは、単なる移動の合図ではなく、非日常への期待や日常への帰属意識を呼び覚ますスイッチのようなものです。
万博という未来の景色を見せてくれた音も、故郷の景色を思い出させてくれる音も、私の人生という旅路を彩る大切な旋律です。あの夢洲へ向かう高揚感を胸に、次はどのような「音」に導かれ、新しい景色に出合えるのか。私の旅はこれからも続いていきそうです。
プロフィール

薬学部 医療薬学科 教授
松元 加奈 まつもと かな
兵庫県新温泉町出身。新温泉町観光大使。武庫川女子大学薬学部薬学科卒業、大阪大学大学院薬学研究科修士課程修了。博士(薬学)。治験コーディネーター、病院薬剤師を経て、2007年に本学着任。専門は臨床薬学、薬物投与設計、個別化医療。私生活では、小学生の娘の習い事(ピアノ、歌、テニス、俳句など)や学校巡りへの同行、万博来場や第九の練習への参加など、あらゆる「旅」を娘と共に歩むことが日々の活力。医師をめざす娘が将来その道を歩み始めたとき、薬の専門家として彼女を支えることが現在の大きな夢である。
